第8章 少しだけ震えた彼の肩
「悪いな、わざわざ運んできてもらって」
「い、いえ……総悟くんは大切な友人なので…」
「……アンタも知ってると思うが、アイツはあの歳にして大分腕のたつ剣客だ。天才剣士なんて言われてるアイツが____腹をバッサリいかれてる。相手は相当な手練れだろう。辻斬りだとしたら____お前も注意しろよ。まァ大方、真選組に恨みを持つ奴の仕業だと思うけどな」
土方さんはふぅ、とタバコの煙を吐き出した。
あの後、ぐったりした総悟くんに肩を貸す形で大通りまで出た。(ほとんど引きずってた気もする。気を失った男の人ってあんなに重いの!)そして丁度通りかかったタクシーに声をかけて、真選組屯所へとやってきたわけだ。
「あの……」
「なんだ?」
「総悟くんには……お姉さんがいらっしゃるんですか」
総悟くんが意識を手放す前____彼は、私に向かって「姉上」と言ったのだ。置いて行かないで、とも。
まだ数ヶ月の付き合いだが、彼が人に弱みを見せるのがすこぶる嫌いなタイプの人だということは分かっている。そんな彼が、今にも泣き出しそうな顔で、弱音を吐いたのだ。私が散策するべきではないのかもしれないが……お姉さんと総悟くんに、何かあったことは明白だった。
「お前、なんでミツバのことを……」
土方さんが咥えていたタバコをぽろりと落とす。そして、火のついた部分が手に直撃したらしく、「あっづ!!」と叫んだ。いいリアクション。
「総悟くんが、さっき私に___姉上、と」
「………そうか。」
やっと分かった、と彼は視線を落として呟いた。
「アイツはあの性格だ。人に執着することはまずない。まァ近藤さんや、それこそ姉なんかは別だが____それも、長い付き合いがあってこそだ。俺は、前から、知り合って数ヶ月くらいのお前に、なぜ総悟があそこまで懐いてるのか知りたかった」
「彼は、私と____お姉さんを、重ねているんですよね」
今まで私に向けられていた、彼の笑顔や優しさは、全て、お姉さんに宛てたものだったのだろうか。
____ねえ、”そーちゃん”。私は、貴方のお姉さんと同じにはなれないよ。
医務室で眠る総悟くんに、届かないと自嘲しながらも、私は心の中で呟いた。