第7章 唇から伝染する
「佐賀見さん……!?」
「アンタ諦め悪ィなァ、美和は俺のモンだってさっき言いやしたよねィ?そんなの見せつける必要なんざねーや」
佐賀見さんが発した言葉に、完全に意表を突かれた。総悟くんもそうくるとは思わなかったみたいで冷や汗が浮かんでいる。相手を小馬鹿にしたような笑顔も引きつっているようだ。
「目の前で好きな女が他の男とくっ付いてる様子を見てェなんて、お兄さん見かけによらずマゾなんですねィ(ちょっと待てちょっと待て、美和さんとそういうことするのが嫌なわけじゃねーけどよ、こればれたら確実に旦那に殺されるだろでも挑発に乗ってくるような単細胞じゃなさそうだしなコイツあぁどうしよう)」
彼はいろいろ考えているようで顔色がどんどん悪くなっていく。佐賀見さんは佐賀見さんで、私たちを射抜くような真っ直ぐな視線で見つめている。私たちが即席のカップル(仮)であることなんてとっくにばれてるような気さえした。
「すいやせん、美和さん」
耳元で、ぼそっと総悟くんの声が聞こえたと思ったら、頬に優しく手が添えられた。え、と言葉を発するのも許さないとばかりに、ゆっくり総悟くんの顔が近づく。
え、誤ったのってこのこと?ちょっと待って待って、私は坂田さんと付き合って____
付き合って、るのに?
「オイ総一郎くん?アンタ人の彼女に何やってくれてんの?」
その声は、私の耳にすんなりと馴染んだ。
好きで、好きで仕方なくて、でも、嫌われてしまったと思っていた彼の声が。
「坂田、さ……」