第7章 唇から伝染する
「……旦那」
「ゾロゾロ男を引き連れて何やってんのお前」
「坂田さん……」
私を見る坂田さんの目からは、何も感じられなかった。怒りも、軽蔑も、そういった感情は、何も。
ごく、と無意識に喉を鳴らすと、彼は佐賀見さんに向き直ってこう聞いた。
「で、おにーさんはどちら様?」
「お、俺は、佐賀見といいます。貴方は……」
「コイツの彼氏」
佐賀見さんの瞳が目まぐるしく動く。総悟くんを見て、私を見て、坂田さんを見て。確かに、彼には理解できない状況だろう。というか____もし彼が冷静な思考を持っていたとしても、彼の中で私は男を侍らせるビッチ女に成り下がっているはずだ。
「ごめんなさい、佐賀見さん。……私、嘘をつきました」
「貴方の本当に大切な人は____この、銀髪のお侍さんですか」
「はい」
「………やっぱ、そうかァ…」
佐賀見さんは、少し俯いて、それから顔を上げた。彼は微笑んでいた。
「俺が、貴方を好きになったのは____江戸城の前でした。城門の側で、貴方が話している姿を見つけました。その笑顔に_____俺は恋をしたんです」
遊園地の前。人通りも多く、賑やかなはずなのに____私たちの周りだけ、音が消えたような気さえした。
「きっと、貴方が笑顔を向けていたのは……そのお侍さんだったんでしょうね。
俺は_____彼を愛する美和さんを、好きになってしまったみたいです」
彼の笑顔は、どんなものより、優しく暖かく_____そして、物悲しかった。
こんな優しい人に、嘘をついた私の愚かさを痛切に感じ_____そして、恥じた。
*
「あのさァ」
「…はい」
「めんどくせェって、お前のことじゃねーから」
総悟くんとも別れ、二人で並んで歩いていた時、彼が零した言葉。
バツが悪そうにそっぽを向いて、その後、私にぎこちなく微笑みかけた。
ああ、私は、あなたの笑顔が一番好きだ。