第6章 こんな想いは初めてで
「あ……っ」
何か言おうと思っても、私の口は意味のない音しか零してくれなかった。
顔が熱くなっていくのを感じる。やだ、やだ。早くここから立ち去りたくて足が震える。
「美和、お前」
「すみません、今日は用事があるので帰ります!」
坂田さんの横を無理やり通り抜ける。そこから自分の家に帰ればいいものを、わざわざ反対方向に走り出した。
何をやってるんだろう、こんなことをしたら、坂田さんに嫌われてしまうだろう。いやそもそも、私と同じ気持ちをあの人に求めること自体間違っているのだ、きっと坂田さんのような人には、お妙ちゃんのような、綺麗な人が____
「待てっつってんだろ」
いきなり耳元で低い声が聞こえたと思ったら、腕を引かれて路地裏へ連れ込まれた。
退路を塞ぐように片腕を壁に疲れ、坂田さんは顔をぐっと近づけた。彼は息切れすらしていないのに、私は全力疾走とこの状況のお陰で足がガクガクしている。
赤い瞳に射抜かれるように見つめられて、唇を噛む。この目は、苦手だ。私の心の隅までを見透かされている気さえするから。
「悪かったよ」
「………何がですか」
「色々と危ねェことしちまって」
違う。
私が、私が思ってるのは____
「何も、分かってないです」
「……」
「坂田さんは、私のこと……何もっ、分かってない!」
私の双眼から涙が溢れる。こんなんじゃ、ただの面倒くさい女だ。これ以上嫌われたくないのに、涙は止まってくれなくて____
「嫌いにならないで」
その言葉を洩らした瞬間だった。