第6章 こんな想いは初めてで
唇に、柔らかいものが触れた。それは一瞬で、すぐ離れていく。
「好きだよ」
「好きだから、知りたい。お前の思ってること、全部」
至近距離で告げられたその言葉に、私は目を見開いた。真剣な瞳、切なげに顰められた眉。私の涙を、彼の無骨な指が拭った。
「わ、私」
「……」
「忘れて欲しくなかったの。だって。だっ……て」
心臓が飛び出しそうだ。涙は止まらないし、顔だって真っ赤だろう。そんな目も当てらないような顔を隠したくて、俯く。でも、言わなきゃいけない。
「私、坂田さんのこと…」
その二文字は、私の気持ちを語るには足りはしない。でも、この言葉を伝えようと、人は躍起になるのだ。恋とは、そういうものだ。
「好きです」
その言葉を言い終わると同時に、私の体は引き寄せられて、眼前には彼の胸元が広がっていた。硬い胸板に顔を押し付けられて、強く抱きしめられる。
「坂田さ……、んっ」
急に頬に手が添えられて、唇と唇が重なり合う。わざと音を立てながら、何度も啄むようなキスを繰り返して、苦しくなって口を僅かに開く。その小さな隙間から、ぬるりとしたものが入ってくる。
それは歯列をなぞって、私の舌を捕まえて蹂躙する。頭がふわふわして、足が震える。口の端から涎が垂れても、それを拭う暇さえ与えてくれない。息が持たなくなって、坂田さんの胸板に倒れこんだ。
「ん、っ、はぁ、はぁ……って、ちょ!坂田さん!?」
休憩も束の間、坂田さんは徐に私の背後に手を回し、帯に手をかける。驚いて制止の声をかければ、
「なんだよ、今はそういうタイミングだっただろ」
しれっと言う彼に、羞恥心が込み上げてきて____
「バカにしないでください!!」
そう叫んで、男性の急所に蹴りを食らわせた私は、自分の家へと走るのだった。