第6章 こんな想いは初めてで
ああ、私、坂田さんと。
キス、したんだ。
頭のどこかで、この状況を冷静に分析できてはいたけれど____心臓は弾けそうなほどに高鳴っていて、それは全身へ伝わり、指先は震えていた。
「坂田さ……」
唇が離れ、私が呼びかけても、坂田さんは薄目を開けるだけだった。顎にかけられた手が離され、覆いかぶさるように坂田さんが体勢を崩す。
彼の温もりというか、重さというか、そういうものに押しつぶされそうになって両手で押し返そうとするけど、私なんかの力では坂田さんに敵うわけない。
「ちょっ、ちょっと!坂田さん、重……」
「…………ぐぅ」
「……はあ?」
ぐぅって言った?こいつ、今ぐぅって言った?
よく聞いてみれば微かに寝息が聞こえる。そうわかった途端、私の全身から力が抜け____怒りとか悲しみとか、色々なものが込み上げてきた。
何?寝ぼけてただけってこと?じゃあ全部嘘?含みのある言葉も、あの表情も、____……キスも?
「どいてください!! 坂田さん!」
「………」
「坂田さんってば!警察呼びますよ!!」
「……銀ちゃん!美和に何してるアルか!?」
「ちょ!?銀さん!!?」
私が坂田さんを退かそうと、一生懸命奮闘しているうちに、新八くんと神楽ちゃんが帰ってきた。
神楽ちゃんが坂田さんを思いっきり蹴り飛ばし、彼の体は壁に突っ込んだ。そして、着崩れた私の着流しを見て、新八くんと神楽ちゃんはすごい表情を浮かべて壁に刺さった坂田さんに歩み寄る。
「最低ですね!か弱い女性を襲うなんてそれでも侍ですか!銀さん!」
「これだから男は嫌ネ!これから私に近づかないで」
と、罵詈雑言を浴びせながら坂田さんを蹴り続ける。さすがに目が覚めたのか、「何何何!?なにこの過激な目覚まし!!」と、坂田さんが起き上がる。
「美和を襲っといて何しらばっくれてるアルか!」
「襲っ……え?違うよね?何もないよね美和ちゃん」
「覚えてないなんて………バカにしないでください!!!」
その言葉が引き金となって、坂田さんは完全に犯罪者認定されたというわけだ。