第5章 過去も未来もすべて
しばらく時が進み、美和が捕らわれた倉庫では、油断しきったリーダーが鍵を開け、様子を見ようとしていた。
中の状況がどうなっているかなんて想像もせずに。
男が部屋に足を踏み入れた途端、ガン!という大きな音がして、脳天に走る鈍い痛みと共に、彼の意識はブラックアウトした。
「……っ、早く」
結論から言えば、私は男の側頭部を椅子で殴りつけて昏倒させた。勿論、この椅子は私が縛り付けられていたやつである。
一晩中、寝ずに紐を擦り合わせていたのだ。朝方にやっと紐をちぎることができたので、ドアの裏に潜んでいた。もし相手が二人組でやってきたら終わっていたが、そもそも人質を手だけ椅子に縛り付けて放置するような奴が二人がかりで様子を見に来るわけないとは思っていた。
とにかく、男を殴ってしまった以上、早くここから離れなければいつ仲間が来るかも分からない。
椅子をその場に投げ捨てて走り出した。
「おい、女が逃げたらしい!探せ!」
「くそッ、どこ行った!」
まだ30分ほどしか経っていないのに、もう攘夷浪士たちが私を探し始めた。倉庫を出て足の向くままに走っては見たが、どこが出口なのか全く分からない。
木材などが積まれていたり、鉄くずが入った箱が大量に置いてあったり……ここは廃工場なのかもしれない。
そのとき、近くから声が聞こえてきた。
「リーダーを殴るなんて、肝っ玉の据わった女だな」
「まぁ確かにな!俺一目見たが、あれはなかなかの上玉だね」
やばい、やばい。どんどん近づいてくる。隠れるとこなんて材木の影ぐらいしかなく、そこに身を縮めて隠れる。体の震えが忌まわしく、心臓の音が相手に聞こえているような気がして煩わしい。
ぎゅ、と目を瞑ってどれだけ経っただろうか。まだ30秒ほどしか経ってないのかもしれない、でも私にはとてもとても長く感じられた。
行ったかな、と思って目を開く。辺りを見回し、そっと立ち上がったときだった。
ガタン!
「っ!!」
体を木材にぶつけてしまったのだ。さっと血の気が引く。結構大きな音が鳴ってしまった。
逃げなきゃ、そう思って走り出そうとしたとき、後ろから声がかけられた。
「見つけたぞ!」
「やめっ、!」
強引に肩を掴まれて床に引き倒された。