第1章 1
「だめだよ、磯貝くん! 何かが起きてる……危ないよ!」
「校庭にはサッカー部が……前原がいるんだ! 助けないと!!」
幼い頃からの親友の身を案じて、渚を振り解いてすぐさま屋上を出て行った。
しばらく呆然としていたが、渚もハッと何かに気づいて、磯貝の後を追うように屋上を離れた。
「ちょ……渚!」
茅野が彼の後を追いかける。残されたカルマも彼女に続いた。
「何……これ」
絶望と恐怖が混ざった声音で彼女は呟いた。
無理もない。あのカルマだって血の気の失せた真っ青な顔をしていたのだから。
よくあるB級ホラー映画のワンシーンのようだった。
歩く屍が生者の血肉を求め、捕食するシーン。まさに今目の前で起きている出来事だった。
「なっ……渚くん! 今は無理だ! 逃げよう!」
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
生徒達が逃げ惑う中、カルマは恐怖で動けない渚と茅野の腕を掴んで引き返した。
「は……放してカルマくん! 磯貝くんが……それに校庭にはまだ杉野が!!」
「今は他人のことなんか気にしてる場合じゃないだろ!!」
こんな異常事態にまで友人を心配する渚を怒鳴りつけ、息を切らしながら屋上へと引き返して来た。
無数の生徒達『だった』奴らが追いかけて来て、慌ててドアを押さえつける。
だんだんと聞こえなくなる悲鳴に、三人はようやく自分達が過ごした日常はもう戻らないと悟ったのだった。
あれから、半年後。
何事もなく過ごせていたのであれば、渚達は中学三年生になっている。
結局、磯貝が帰って来ることはなかった。もちろん前原と杉野もあの日を境に見かけていない。
なんとか学校に立て籠もって生きてはいるが、救助が来る気配はない。
パンデミックが起きた日、もし磯貝が誘ってくれなかったらどうなっていただろうか。
きっと自分達はさっさと帰宅して、あの化け物どもの餌食になっていただろう。
ある意味磯貝が自分達を助けてくれたのだが、その張本人は行方不明だ。
どうしてあの時もっと必死になって引き止めなかったのか。それだけが悔やまれる。