第8章 海常高校
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涙が流れた理由……それはただ安心したからだ。
別にみんなから好かれたいとかじゃないし、私をずっと好きでいてもらいたいとかではないけど……
急に変化があると怖くてたまらなくなる。
(でもよかった……何もなくて……)
人としては涼太くんの事が大好き。
だから彼を1人の男として見る事が出来ない自分が嫌だったり、申し訳ないなと思ったりしている。
私だけを想ってくれて……優しく涙を拭ってくれる彼なら、付き合っても大丈夫だろうとは考えるけど……
それでも頷けないのはきっと……
「んじゃ行こうっち!」
「!!」
(きゃぁっ……!)
こうして私を平気で抱きかかえるから。
いや……私しか見てないから。
涼太くんにはもっと素敵な女の子のがお似合い。
私みたいな平凡な奴じゃなくて……もっと輝いてる人の方がずっと良い。
それにちゃんと声で会話が出来た方が楽しい筈だ。
(涼太くん……!)
「へへ!泣かせたお詫びっス!」
「っ……」
(別にいいのに……っ)
もし今私が話せたら一体どんな声なんだろう。
小さい頃はまだ喋る事が出来たし、ビデオに残ってる。
けど聞いたら絶対悲しくなるからもう何年も見ていない。
筆談でも楽しい時は楽しいけど、笑い声すら発せられないからよくシラけられたりする。
それがやっぱり怖くて……用がない限り知らない人とかには話しかけられない。
「黄瀬テメー!!そいつを降ろせよ!!」
「嫌っス!このまま体育館まで連れて行くんだから!ねーっち!……あれっ?!いねぇ!!」
「そうはさせません」
「ちょ!黒子っちいつの間に!!」
「っ……」
(今度はテツヤくんに抱っこされたぁ……っ)
今は慣れたテツヤくんや涼太くんだって最初は怖かった。
だからずっと彼らから逃げてたけど……キッカケをくれたあの子に、私は今でも感謝している。
最近はどうしてるだろうか。
「ナイス黒子!」
「全然ナイスじゃないっスよ!」
「こんな人達放っといて行きましょう」
(えっ……う、うん)
今日帰ったらメールを送ってみよう。
ピンクの髪が綺麗なあの子に。
「全然ナイスじゃないっスよ……おお!黄瀬ナイスダジャレだな!」
「伊月黙れ」