第7章 練習試合前日
伊月side
「キタコレ!」
(ふふっ……!)
初めてだったんだ。
女の子で俺のダジャレにこうして笑ってくれる子に出会ったのは。
今までは冷ややかな目で見られるだけだったのに、ちゃんだけは違う。
しかも笑い方が控えめで……腹抱えて大笑いするより可愛いなと俺は思った。
「おっ、今のわかってくれた?」
【はい。心肺と心配……ですよね?】
「そうそう!早速ネタ帳に書かないとな!」
いや、元々可愛いとは思ってた。
新入生勧誘を行っていたあの日から。
その時言った「バスケットだけに助っ人募集中」にはちょっと反応が悪かったけど……今じゃ俺のネタ帳を覗いてくるくらい興味があるらしい。
【結構ビッシリ書いてあるんですね】
「ああ、まだまだあるぞ」
【何冊くらいですか……?】
「100冊は書いたな」
【これ上手いですね】とか言ってくれるのは、俺にとって神の言葉に等しいくらい嬉しい。
だから張り切って、暇さえあればダジャレを考えてしまう。
その時は必ず日向の怒りが飛んでくるけど。
「?!」
(ひゃ、100……?!)
「今度1から見せてあげようか」
【はい……!是非!】
「ははっ」
けどいくら日向に「死ね」とか言われても、最近は全然気にしなくなった。
それよりちゃんが見せてくれる笑みを楽しみにしてる自分がいる。
たまに「何やってんだ俺は」って思う時もあるけど……人を笑わせられるってそう簡単に出来る事じゃない。
だから俺は彼女の為に頭を柔軟にするんだ。
ふふっと自分に向けて笑ってほしくて。
(って……これじゃまるでこの子に恋してるみたいだな……)
「……?」
(伊月先輩……?)
「ん?ああ、いや何でもないよ」
でも俺の気持ちはここ止まり。
あくまで笑顔にしたいからであって、好きとかそういう感情はない。
だがちゃんはジワジワと……自覚なしで俺の心を奪っていく。
冷静になっても直ぐ盗みに来る。
そんな日が訪れるのは……
そう遠くない。