第6章 キセキの世代・黄瀬涼太
「ふぅ……とりあえず上手く逃げれたっスかね」
体育館に案内してもらったのはいいけど……来る途中でどんどん女の子が集まって来ちゃったから、数枚だけサインを書いて逃げてきた俺。
今居るのは二階のギャラリー。
ここからだと全体が見渡せるのだが……
「あはっ!っち見つけたっスよ!やっぱ可愛いー!」
練習風景より真っ先にっちを視界に入れてしまう。
小柄な体格が好き。
可愛い顔が好き。
性格も好き。
もう全部好き。
話せないとか関係ない。俺は中2からずっと、っちにゾッコンだ。
(あーもう早く好きになってほしいっスー!)
って言ってると、本当に彼女しか見てないように思うだろうが実は違う。
名前は知らないけど……今赤い髪の奴が結構いいプレーをしていたのを、俺はしっかりと捉えていた。
それはフルスピードからの切り返し。
その程度なら俺にも簡単に出来る。
「おっ、ウチの話してるっスね。強いっスよ海常は。何せ俺がいるからね」
横目でっちを見つつ、耳では誠凛の話し合いを拾いながらステージへと降りてみる俺。
さっきより近付いたっちとの距離に、抱きしめたいという衝動が次々と出てきてウズウズする。
最後腕に抱いたのは卒業式の時で、あれ以来何度もデートに誘ったのに断られてきたから会っていなかった。
だから今日は思いっきり抱きしめようと決めている。
「あのっ!サインお願いします!」
(えっ?!あちゃー……もうバレちゃったんスね)
俺の周りに集まらないでー!っちが見えなくなる!
そう心で涙しながら色紙にペンを走らせる黄瀬涼太。
自分がかっこ良くて有名な事を恨んだ瞬間である。
……けどそれはほんの数分。
辺りがガヤガヤしてきたから……誠凛の奴らがこちらに気付いたのだ。
当然、っちも。
「!!」
(りょ、涼太くん……!)
(っ〜!!っちと目が合ったっス!!)
俺は全て素直に反応しているけど……どうか〝小学生かっ!〟と言わないでいただきたい。
会話をする。
目が合う。
手が触れ合う。
好きな子とだったら……何歳になっても嬉しいと思うものだ。