第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
早川は宣言通り、週明けには出社した。
そして、帰ってくると、キッチンにいた黒尾のところへ一目散に駆け寄った。
「ただいま!クロ、クロ、聞いて、私仕事辞めることになった!」
「おかえり。おお、ちゃんと言えたのか。偉い偉い。」
キッチンで夕飯の支度をしていた黒尾は、早川を褒めた。
「うん。言ってみたらすごいあっさりと決まった。
私の抜ける分は派遣増やすから、もう明日から有休消化に入っていいって。
なんていうか、拍子抜け……。
ほんと私って戦力外だったんだなあ……って。」
しょんぼりと肩を落とす早川の頭を、黒尾はよしよしと撫でた。
「ナギはこれからだよ。次はきっとうまく行く。」
「うん。がんばる。」
そうはっきり言って上げた顔からは、やる気がうかがえたので黒尾は嬉しくなる。
「よし、じゃあ手洗って来い!もうすぐメシできるぞ。」
「はーい。あ、ねえ。私ホントにここに住んでも良いんだよね?」
「あ?何言ってんだ今更。当たり前だろ。」
フライパンを火にかけながら黒尾が返事をする。
「じゃあ、今週中に家具も運び込んでいい?
いつまでもクロのベッド使ってるのも悪いし。」
「おう、いつでもいいぞ。病み上がりなんだから無理すんなよ。」
早川はすぐに手を洗って戻ってきた。
「手伝う。明日から私仕事ないから、ごはん作ろうかな。」
「じゃあ皿出して。
飯は俺も研磨も家で食べない日もあるからなあ。気つかわなくていいぞ。
ナギだって転職活動あるだろうし。」
黒尾に言われた通り棚から皿を取り出した。
「そうだねえ。じゃあ家で食べる日は連絡ちょうだい。
何か用意できるかもしれないから。」
「分かった。研磨にも言っとく。」