第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
「結婚をね、したかったの。」
「そうなんだ。」
彼女はクローゼットの中を漁りながら、話し始めた。
「でもその話をするようになった途端に、いろんなことがうまく行かなくなった。」
「うん。」
「結婚なんて考えなかったら、ずっと仲良くしていられたのかなって、思ってる。」
「うん。」
「意味ないけど、考えちゃう。」
「……うん。」
「最後は本当にケンカばっかりだったし、
嫌いって思ったはずなのに、
いざ別れると、楽しかったこととか、嬉しかったこととか、幸せだったことばっかり思い出すんだよね。」
「ナギ?」
孤爪が心配になって彼女を後ろから覗き込むと、彼女は手にした何かを見つめていた。
(指輪……?)
早川は袖でぐいっと目元を擦ると、くるりと振り向いて、それもゴミ袋に入れた。
「ごめん。」
孤爪が呟くと、早川は不思議そうに彼を見上げる。
「どうして研磨が謝るの?」
ふいっと視線を逸らせて、彼はぼそぼそと言葉を漏らす。
「俺、こういうときなんて言ったらいいか分からない。
クロだったらもっとうまくナギのこと慰めたりできると思うんだけど……。」
「研磨はそんなこと考えなくていいんだよ。
私こそごめんね、研磨に気使わせて……。」
それから二人は狭い部屋で黙々とゴミ袋に物をつめていった。