第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
「よーし、じゃあはじめますかー。」
鍵を開けて、中に入って早川は腕まくりをする。
「え。荷物取りに来ただけでしょ。」
「ついでにちょっと断捨利してこう。」
「えぇー……。」
めんどくささを顔全体で表現する孤爪。
「すぐ終わらせるから。明日ちょうどゴミの日だし。
研磨ちょっとこれ持ってて。」
早川は棚からゴミ袋を取り出して孤爪に渡す。
ワンルームの部屋は、数日留守にしていたせいで空気がこもっていた。
彼女がカーテンを開けて、窓を開け放つと、風がさあっと抜けていく。
「研磨、こっちこっち。」
早川に手招きされて、部屋の奥に足を踏み入れる。
クローゼットから出した物を躊躇なく孤爪の持つゴミ袋に投げ込む。
雑貨、手帳、アクセサリー、写真……。
それらを見て、孤爪は悟る。
「ねえ、これって……。」
「うん、彼氏だった人に関する物。ずっと見るのも怖かったけど、もう平気。」
孤爪は、増えていくゴミ袋の中身から一枚の写真を取り出して眺める。
今より少し若い早川の笑顔と、隣には知らない男が写っていた。
(クロとは似てないな。
なんとなく、ナギはクロみたいな人と付き合ってるんだとばっかり思ってたけど。)
それをそっとゴミ袋の中に戻す。