第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
「ナギ、まだー?」
「あ、待ってもう行く。」
孤爪に急かされ、早川はぱたぱたと玄関に走ってくる。
「ナギの家ってどのへん?」
「駅の反対側。小学校とか近くにある。」
鍵をかけて、二人で並んで外に出る。
「ああ、あのへんか。自転車取ってくるからちょっと待ってて。」
孤爪は敷地の裏にある駐輪所から自転車を出してきた。
「乗っていい?」
「いいけど……坂は降りてよ。」
「わかってるって。」
早川は後ろの荷台に腰かけて、孤爪の腰に腕を回した。
「落ちないでよ。」
「大丈夫大丈夫。」
はあ、と小さくため息をついて、孤爪はペダルを踏み込んだ。
「きもちいねー。」
「そりゃ、ナギは乗ってるだけだからね。俺は疲れる。」
「ふふ。じゃあ帰りは私が漕ぐよ。」
「絶対ヤダ。俺まだ死にたくない。」
「えーそこまで言う?あ、そこ右のほうが近いよ。」
早川に言われるままに自転車を走らせて、10分ほどで彼女のアパートについた。