第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
やけに静かだなと思って孤爪が隣に座る早川を見ると、案の定座ったままで眠っていた。
(どうしよう。俺じゃナギのこと運べない……。)
クロがいればベッドまで運んでくれるのにな、と意味のないことを考えながら、
孤爪は毛布を持ってきて彼女にふわりとかけた。
そっと肩に手をかけて、ソファに横にさせる。
「ん……研磨?」
「どうする。ベッド行く?」
半分眠ったままの彼女にそう聞くが、彼女はそれには答えずに手を伸ばす。
「え、なに?起きるの?」
反射的にその手を取って起こそうとするが、どうやらそうではなかったらしい。
「んー……」
早川は孤爪の手を握ったまま再び寝息を立て始めてしまった。
(動けない……。)
彼女に捕まれた手を眺めて、孤爪は呆然とした。
ソファに寄りかかってうとうとしていた孤爪は、早川の声に目を覚ました。
「ナギ?」
彼女を振り返ると、寝言のようだ。
(うなされてる?)
眉間にしわを寄せて、何かむにゃむにゃと呟いている。
起こすべきか迷っていると、彼女の目尻から涙がこぼれて、顔の上を滑り落ちた。
繋がれたままの手を少し握り返して、孤爪は彼女を呼んだ。
「ナギ、ナギ、大丈夫?」
「……あ……けん、ま?」
目を開いて、彼女はぼうっとした表情で孤爪を見つめた。
「うなされてた。」
「……あ、そうかも。」
「怖い夢みたの?」
「あんまり、覚えてない……。」
早川はゆっくりと起き上がりながら、涙を拭った。
「なにか飲む?もうすぐお昼だけど、食べれそうなものある?」
気分を変えようと、孤爪は立ち上がった。
(俺じゃナギのこと慰められない。クロはやく帰ってきて。)
孤爪は自分の力不足を少しだけ悔いた。