第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
翌朝、早川は黒尾のベッドで目を覚ました。
(また、クロの寝床とっちゃったなあ。)
ゆっくり起き上がって、リビングへ入ると、孤爪が一人でソファに座っていた。
「あ、おはよう。」
「おはよう……えっと、クロは?」
早川がそう聞くと、孤爪は手にしていたゲーム機を置いて立ち上がった。
「とっくに会社行ったよ。俺は休み。」
「そうなんだ……。」
「気にしなくていいよ。普段からクロよくソファで寝てるし。」
早川の心を読んで、孤爪はそう言った。
冷蔵庫を開けて、中を物色する。
「ゼリーなら食べれそう?ポカリもあるけど。」
「うん。ゼリーもらっていい?」
パウチに入ったゼリーを渡されて、早川はそれを少しずつ呑み込んだ。
「大丈夫?」
「うん。なんとか……。研磨はクロがいない時しっかりするよね。」
そう言って早川が笑うと、孤爪は昨日の黒尾の言葉を思い出した。
「二人とも俺のことなんだと思ってるの。」
「え?」
「なんでもない。それ食べたら薬飲んでまた寝なよね。
俺今日はずっと家にいるから何かあったら声かけて。」
孤爪がそう言って再びソファに座ってゲームを始めると、
早川はゼリーを咥えたまま隣に座った。
「なに?」
彼が画面から目を離さずに声を出すと、小さく礼を言った。
「ありがとね、研磨。」
「俺別に何もしてない。
迎えに行ったのもここに連れて帰ってきたのも全部クロでしょ。」
「クロは頼りになるけど、研磨といると落ち着くから。」
意味わかんない、とぼそりと呟いて、孤爪はゲームに集中しようとする。
しかし隣から早川がじっと見てくるので気が散ってしまう。
「……えっと、やる?」
「ううん。研磨がゲームしてるのを見るの好き。邪魔?」
「うん少し……。」
困った孤爪が正直に答えると、早川は静かに笑った。
「研磨のそういうとこすごい好き。」
「ナギめんどくさい。早く薬飲んで寝なよ。」
孤爪にそう冷たく突き放されても、早川は嬉しそうに笑っていた。