第8章 ここにいる理由②(黒尾&孤爪)
病院に着くと、早川は青白い顔をしてベッドに寝かされていた。
「早かったですねー。まだ点滴終わらないんで、待っててくださいね。」
看護師にそう言われて、
黒尾はベッドの脇に置いてあったパイプ椅子に腰を下ろした。
「あの、大丈夫なんですか?こいつ……。」
心配になって、看護師を捕まえて聞く。
「大丈夫ですよ。ただの胃炎。点滴で薬も入れて落ち着いたし。
数日はろくに食べられないだろうけど、薬飲んで安静にしてればよくなります。」
「胃炎……て、ストレスですか。」
「まあそうですね。お大事に。またあとで見に来ますね。」
看護師はそう言い残して出て行った。
恐る恐る、点滴の刺さった彼女の手を握ると、その体温にほっとする。
「クロ……?」
ゆっくりと目を開いて、彼女は小さく彼を呼んだ。
「ナギ、大丈夫か。」
顔を覗き込んでなるべく優しく声をかける。
「ごめん、誰か迎えに来てくれる人はいますかって言われて、とっさにクロしか思い浮かばなかった。
でも一人で帰ればよかったね。子供じゃないんだから……ごめんね。」
黒尾は、弱々しく声を漏らす彼女の頭をそっとなでた。
「そんなこといいんだよ。研磨も家で心配してる。
点滴終わったら一緒に帰ろうな。」
彼女は頷いて、にこりと笑った。
「ありがと、クロ。」
それから二人はぽつぽつと言葉を交わした。
「倒れたって聞いて、びっくりしたんだからな。」
「うん。私もびっくりした。」
「だから早く引っ越してこいって言ったのに。」
「そうだね。クロの言うとおりだ。」
「ちゃんと回復するまで会社休めよ。」
「うん。一週間くらい休んでもいいかな。」
「休め休め。ついでにやめちまえ。」
「それはさすがに、ムリかなあ。」
「そうか……。」
そこで会話が途切れた。
目を閉じた彼女に、黒尾は小さく呼びかけた。
「ナギ、次はお前がちゃんと自信を持ってできる仕事を探そうな。俺も手伝うからさ。」