第8章 ここにいる理由②(黒尾&孤爪)
それから黒尾は頻繁に早川に連絡するようになった。
ちゃんとご飯を食べてるか、夜は眠れてるか、
職場で辛いことはないか、次はいつ顔を見せに来るのか。
それでも早川は日に日に元気をなくして行っていた。
「やっぱり十年以上の付き合いの彼氏がいなくなったのが大きいんじゃないの。」
夕食を終えて、孤爪はソファでゲームをしながらそう呟いた。
今日は珍しく帰りが早かったのだ。
「やっぱそうだよなー。なんで別れちまったんだろうな。」
黒尾がため息をついて孤爪に寄りかかると、
やめてよ、と逃げられてしまった。
「知らないよ。そういえばナギ仕事辞めれそうなの?」
「やっぱり急には言い出しにくいのかもな。
職場に頼れる人もいないだろうし。」
「さっさとやめちゃえばいいのにそんなところ。」
吐き捨てるように言って、孤爪はゲーム機から顔を上げた。
「ナギ、次はいつ来るの?」
「今日の予定だったんだけど、体調悪いからまた今度にするって連絡あった。」
「ふーん。大丈夫かな……。」
そのとき、黒尾のスマホが鳴った。
「知らない番号だな……03だから都内か。」
そう呟いてから画面をタッチした。
「はい。」
「もしもし、A病院と申します。
黒尾さんのお電話でお間違いないですか。」
「そうですけど……。」
聞き覚えのない病院名と女性の声に、不信感を募らせる。
「失礼ですが、早川凪沙さんのお知り合いの方でよろしいですか。」
「はい。彼女に何かあったんですか。」
黒尾の反応に、そばにいた孤爪にも緊張が伝わる。
「研磨、俺ちょっと出てくるわ。」
電話を切って、黒尾はそう告げた。
「どうしたの。なにがあったの。」
「ナギが倒れて運ばれたらしい。」
その言葉に、孤爪は立ち上がった。
「俺も行く。」
「お前はここにいろ。
大丈夫だ、入院の必要もないから迎えに来てくれっていう連絡だったから。
すぐあいつ連れて帰ってくる。」
黒尾から説明されて、孤爪は大人しく頷いた。
「……わかった。クロも気を付けてね。」