第8章 ここにいる理由②(黒尾&孤爪)
食事をしながら、黒尾はタイミングを見て切り出した。
「ナギ、俺たちとここで一緒に住まないか?」
「え?」
早川は意味が分からないという風に目を丸くする。
「一部屋空いてるんだよ。荷物置き場になってるけど、
そこ片付ければもう一人余裕で住めるからさ。」
早川はまだ信じられないという様子で固まっている。
「昨日のナギの話聞いて、やっぱりお前は転職したほうが良いと思ったんだ。
まだギリギリ20代なんだからいくらでも次の仕事見つかるって。
生活のことが心配なら、ここに住めば解決だろ。」
「でも……。」
遠慮と戸惑い半々といった表情の早川に、孤爪もダメ押しする。
「ナギに営業とか似合わない。無理。コミュ障のくせに。」
「お前がそれ言うかね。」
「クロうるさい。」
孤爪が軽く黒尾を睨む。
「まあそういう訳で、研磨も賛成みたいだし。
家賃も生活費も、お前の転職決まったらきっちり取るから遠慮するな。」
「ええと……。」
早川が何と答えるべきか考えていたら、
「ナギ、こうなるとクロはこっちの言うこと聞かないから諦めたほうが良いよ。
俺の時もそうだったし。勝手にこの部屋決めてきて引越しさせられたから。」
孤爪はそう言って食べ終えた皿を片付け始めた。
「えっと、ちょっと急すぎて……少し考えてもいい?」
「まあ、それもそうだな。じゃあ合鍵だけ渡しとくからいつでも来い。
俺たちはそのつもりでいるからさ。良いよな、研磨。」
「別に、いいけど。」
孤爪が頷くのを見てから、黒尾はぽんっと彼の肩に手を乗せた。
「じゃあ研磨は今日はナギの部屋の片付けな。ほとんどお前の物だろ。」
「えー……。」
「えっと、私手伝うよ。今日何もないし……。」
そう言って早川はごちそうさま、と手を合わせた。