第8章 ここにいる理由②(黒尾&孤爪)
「あー、研磨もほんとにおっきくなってる……」
翌朝、というか昼も近かったが、早川が目を覚ましてリビングにやってきての第一声はそれだった。
「ナギうるさい。」
孤爪がすこしうんざりしてつぶやくと、早川はその口調にも感動を示す。
「あー、絶対研磨だ変わってないね。
うわあ、身長いくつ?いつ伸びたの?玉ねぎ食べれるようになった?」
「クロ、なんとかして。」
早川から逃げるように孤爪はキッチンに立つ黒尾の背中に隠れる。
「おい、火使ってるんだからやめろ。
ナギ、お前はシャワー浴びてこい。
タオルもシャンプーもなんでも好きに使っていいから。」
「ありがと。じゃあちょっと借りるね。」
早川はパタパタとお風呂へ向かった。
「ねえ、昨日と話が違うんだけど。
仕事に悩んで10年付き合った彼氏とも別れてうつ状態って話じゃなかったっけ?すごい元気じゃん。」
彼女の足音が消えてから、孤爪は黒尾に詰め寄る。
「研磨のことみて元気になったんじゃねえの?良かった良かった。」
不満そうな表情の孤爪に、黒尾は出来立てのオムレツを一口すくって食べさせる。
「うまいか?」
「……まあまあ。」
「よし。じゃあ大丈夫だ。研磨のまあまあはおいしいってことだからな。」
「なにそれ。」
黒尾に料理ののった皿を押し付けられて、孤爪は渋々とテーブルにそれを運ぶ。