第8章 ここにいる理由②(黒尾&孤爪)
(飲むの早いな……酔ってんのか。)
黒尾はその言葉を声に出さずに飲み込む。
「でもね、異動ないんだ……。
誰も私のことなんていらないって。」
「それはちがうだろ。」
「違わないよ。どの部署も私のことなんて使えないって思ってるから、どこにも居場所がないんだよ。
家でも、職場でもいらないって。
彼氏にも、いらないって……もう終わりにしようって……。」
そこまで言って、早川は俯いて肩を震わせた。
「ナギ……そんなこと言うな。」
黒尾は手にしていた缶を置いて、そっと早川の頭をなでてやる。
すると彼女はぼそぼそと話し出す。
「あの頃、クロたちと一緒にいた頃は、こんな大人になってるなんて、ちっとも思わなかった。
もっとちゃんと仕事して、認められて、堂々と大人してると思ってた。
でも全然だめだった。」
黒尾は黙って彼女の頭を抱き寄せる。
しばらくして、腕の中で早川が寝息を立てていることに気付いて、
彼女を自分のベッドに連れて行った。
(なんとかしてやりてえけどな……。)
涙の跡が残る頬をそっとなでて、黒尾は部屋を出た。