第8章 ここにいる理由②(黒尾&孤爪)
15分ほど歩いて、黒尾と孤爪の住むアパートに着いた。
オートロックを解除して、中へ入る。
「うわ、オートロック。豪華だねえ。」
「え、お前んとこついてないの。女の一人暮らしなのに危ねえな。」
黒尾が眉間にしわを寄せる。
「うち家賃補助ないから。オートロックのとこなんて住めないよ。」
早川はしょうがないよ、と言って笑った。
階段で二階に上って、玄関の鍵を開ける。
「お邪魔しまーす。わ、広いね。」
「そうか?あ、荷物適当に置いて。
洗面所そっちな、手洗いたかったらどうぞ。」
黒尾は上着を脱いでネクタイを外しながら言った。
早川は手を洗って、リビングの隅に鞄を置いた。
「男の二人暮らしっていうからどんなかと思ってたけど、結構キレイだね。」
「だろ?自炊もしてるし。
ていうか研磨ほっとくとロクに食べないから危険。」
「クロお母さんみたい。」
早川はソファに座って笑った。
「あいつの方が帰るの遅いからなあ。」
「研磨忙しいんだね。仕事は何してるの?」
黒尾は冷蔵庫を開いて缶チューハイを2本取り出す。
「SE。忙しいときは死んでるけど、まあその分休みはまとめて取れてるみたいだな。」
「へー。研磨らしい仕事だね。今もゲーム好きなの?」
黒尾が早川に二本の缶を見せる。
どっちがいい?と黒尾が聞くと、彼女はレモンサワーを選んだ。
「ああ。昔ほど寝ても覚めてもってわけじゃないけど。」
言いながら、黒尾は早川の隣に腰を下ろした。
「そうなんだ。研磨も大きくなってるんだろうなー。
子供の時は私よりチビだったのに。」
早川は楽しそうに笑いながら思い出に浸る。
少し元気な様子に、黒尾は安心する。