第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
「うち、離婚したでしょ。」
「ああ……。」
黒尾は低く相槌を打つ。
「私は父親について行ったんだけど、私が高2の時に再婚したの。
子供も生まれた。あの家は、新しい家族で回ってるっていう空気があるから。
だから、実家には戻れない。」
「ナギ……。」
黒尾がなんて言っていいか分からないでいると、彼女は明るい声でこう付け加えた。
「あ、でも何か意地悪されてるわけじゃないし、年に数回は帰ってるし、
ちゃんと大学まで出させてもらって感謝してるし。
ていうか再婚してなかったら大学行くお金なんてなかったし。
だから、全然恨んだりしてないから。」
黒尾はただ、小さくつぶやいた。
「いろいろあったんだな……。」
「うん。いろいろあった。
そのときにね、ずっと一緒にいてくれたのが、彼氏だった。」
早川は俯いて小さく零した。
「ああ、例の。付き合って長いんだっけ?」
「10年以上だね。高校の時から、ずっと支えてくれて。
でもね、この前別れちゃった……。」
そう告白して、早川は大きく息を吐いた。
「そうだったのか……。」
そこでようやく黒尾は全てを理解した。
(公私ともに、どん底ってわけか……。)
それから少しだけ飲んで、少しだけ喋って、二人は店を出た。
「なあ、明日休みだろ。うち寄ってく?
研磨まだ帰ってないけど、日付が変わる頃には帰るはずだからさ。会ってけば?」
「……。」
何も言わずに迷っている様子の早川に、黒尾はもうひと押しする。
「な、そうしろよ。一人で家にいるより気が紛れるだろ。
俺も飲み足りないから家飲み付き合ってくれよ。」
「彼氏と別れたばっかりで、男の家に行くとか私どんだけビッチなの。」
「何言ってんの。別に何もしねえし。
ていうか家でそんなことしたら研磨に出て行かれるし。」
黒尾のその言葉に、早川は思わず吹き出す。
「じゃあお邪魔してみようかな。」
二人は夜道をゆっくり歩き出した。