第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
そんなことを思い出していたら、彼女は少しずつ話し出した。
「クロが助けてくれようとしてすごく嬉しかったの。
本当にありがとう。
でもね、私本当にダメで、何にもできなくて。
クロにも迷惑かけたらどうしようって心配だったの。
そしたら先輩が任せてって言ってくれたの。先輩のことは責められない。私が使えない奴なのが一番悪いから。」
そこまで聞いて、黒尾は堪らずに声を上げた。
「お前さ、もうその仕事やめろよ。向いてねえよどう考えても。」
「……やめれないよ。」
「何言ってんだよ。新卒で入社して5年もたってるだろ?それでこの状況ってもう絶対向いてねえって。」
彼女は、黒尾から視線をそらしてつぶやいた。
「……やめたら生活できないし。」
「実家は?」
早川は黙って首を横に振った。
早川と黒尾と孤爪は幼馴染だった。
黒尾だけが1学年上で、早川と孤爪は一つ下。
三人とも一人っ子で、家が近所だったため、よく一緒に遊んでいた。
特に、早川と孤爪はどちらも大人しい性格だったため、
黒尾が引っ張っていってよくみんなの輪に入れてあげていた。
早川が引っ越していったのは、彼女が中学3年の冬だった。
彼女の受験が終わると同時に、早川の両親は離婚した。
黒尾も孤爪も、当時詳しい事情は聞かされていなかったし、引っ越し先も分からなかった。
ただ、合格していたのは都立の高校だったことは確かで
都内のどこかにいるだろうということだけは分かっていた。
何も分からないまま突然いなくなった早川に対して、
黒尾も孤爪もひどく心配をして、自分たちもとても悲しかったことは覚えている。