第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
その代り、仕事の合間に早川にラインを送る。
「今夜、空いてるか?」
しばらくして返事が来る。
「うん。空いてるよ。先輩から聞いた。
商談うまく行ったみたいね。ありがとう。」
黒尾はそのことには触れずに、用件だけ送りつけた。
「じゃあ7時にこの前の下北の店で。」
例の合コンから1か月以上が経っていた。
その間、黒尾は早川と何度も連絡をとったが、あの日以降会っていない。
早川に彼氏がいることを思うと強引に誘うのも気が引けたというのもある。
それでも、店に現れた彼女を見て、もっと早く会うべきだったと思い知らされた。
「ナギ、大丈夫か?顔色悪いぞ。」
「え、そうかな?平気だよ。」
「それに、ちょっと痩せた?ちゃんと食べてるのか。」
「うーん。最近食欲もあんまりなくて。」
黒尾は、まあ座れ、と椅子を引いてやる。
適当に注文を済ませてから、早川が口を開く。
「商談うまくいったって先輩から聞いた。クロ、ありがとう。」
「そのことなんだけどさ、一体どういうことだ。」
「どうって……。」
「俺は、お前の力になりたくて話を持ちかけたんだぞ。」
「うん。ありがとう。うれしかった。」
「そうじゃねえだろ。あのな……。」
「クロごめん。怒んないで。」
黒尾の苛立ちを敏感に感じ取った早川が、怯えたような表情を見せる。
それは彼がよく知る、子供の時の彼女のそれと全く同じであることにはっとする。
(クロ、ごめんね。怒っちゃヤダ。私のこと嫌いにならないで。)
黒尾が些細なことでピリピリすると、幼い日の彼女はそう言って泣いたのだった。