第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
しかし、応接室に入った時、黒尾はそこに座る人物を見て眉をひそめた。
「黒尾君。この前は、どうもありがとう。」
合コンに来ていたうちの一人の女性がそこにいた。
「あ、いえ。こちらこそ……。」
黒尾はすぐに笑顔を作って対応する。
「早川ちゃんから話聞いたの。彼女別件で手がふさがってて、とりあえず今日は私が対応することになったの。
よろしくお願いします。」
「ああ、そうだったんですか。」
黒尾は心の中で小さく舌打ちをした。
「複合機ですよね。
今お使いの機種よりも、処理速度の良い物がお安く提供できると思いますよ、まずはこちらを……。」
目の前の女性が丁寧に説明を始めるのを、黒尾は他人事のように眺めていた。。
案の定その次も、次の次の商談も、早川の姿は見られなかった。
代わりに先輩の彼女が足しげく黒尾のところへ通うようになった。
「黒尾君、今日、今夜時間あったらごはんでもどう?」
「このへん、おしゃれでいいよね。
良いお店あったら教えてほしいな。」
「あそこの映画館、新しくなったんだって。
今度一緒に行ってみない?」
来るたびに彼女からのアプローチが激しくなり、黒尾は確信を持つ。
(ああ、そういうことか。)
やんわりと彼女の誘いを断りながら、早川のことが頭をよぎる。
(あいつはどうしてるんだ。)
目の前にいる彼女に聞いても意味がないことは分かっているので、ぐっと堪える。