第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
プルル……プルル……
机の上の電話が鳴って、黒尾は受話器を上げる。
ディスプレイには、「内線」の二文字が光っている。
「はい、東京第一営業課、黒尾です。」
「お疲れ様です。受付の三浦です。
○○ファイナンスの方がお見えになりました。」
「ありがとうございます。すぐ行きますので応接室へお願いします。」
黒尾は受話器を置いて、席を立った。
「誰か来たのか?」
隣の席の同僚が声をかける。
「○○ファイナンス。」
「え、それリース会社じゃん。なんで営業のお前のとこにくんの。」
上着のポケットにタバコを押し込みながら、黒尾は答える。
「この前合コンで会った子。
うちの複合機もう古いから安くしてくれるなら総務に掛け合ってあげるって言ったんだよね。」
「はー、さすが。お前がモテるの納得するわ。
ムカつくけど。」
同僚の軽口をスルーして、黒尾はエレベーターホールへ向かった。
あれから何度か早川と連絡を取ったが、
彼女はいつまでたっても契約の話を持ちかけてこなかった。
きっと遠慮しているに違いないと思った黒尾が、催促をしてようやく話が進みだしたのだ。
(まったく、世話の焼けるやつだな。
子供の時から全然変わってないじゃねえか。)
黒尾はエレベーターを待ちながら、考える。
(あんなんじゃ仕事苦労してるだろうな……。)
心配する気持ちは大きかったが、それでも彼女にもう一度会えるのは心躍った。