第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
彼女は力なく笑って、グラスをコースターの上に置く。
「うー、ごめん愚痴だ……。」
「いや、いいよ。俺で良ければいくらでも聞くし。」
黒尾は優しくそう言うと、彼女は少し明るい声を出した。
「あ、でもね、彼氏いるって言ったでしょ。その人が、支えてくれてるから。」
早川の口から、彼氏、という単語が出て黒尾はドキリとする。
「そうか。あ、こんな二人きりで飲んでて平気なのか?」
「うん。そういうのは理解あるから大丈夫。」
はにかんで笑う彼女が幸せそうで、ほっとする。
「あのさ、お前の会社、リースやってるんだよな?」
黒尾は思い出したように話を戻す。
「うん。そうだよ。」
「複合機ってある?うちの会社のやつが更新時期なんだけどさ、
安くしてくれるなら総務に掛け合ってやるよ。」
その申し出に、早川は首を横に振る。
「え、いいよいいよ、そういうつもりで話したんじゃないから!」
「何言ってんだよ。相手は俺だぞ?別に気使う必要ないだろうが。
ていうか、ほんとお前営業向いてないな。
こういうときはな、ありがとうございますって言って素直に喜べばいいんだよ。」
黒尾はそう言って笑いながら早川の頭をなでた。
「……ありがとうございます。」
「よし、じゃあまた連絡するから。ライン交換するぞ、スマホ出せ。」