第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
そこから、二人は電車に乗って下北沢へ向かった。
帰る駅が同じなのに、わざわざ都心にとどまる理由はなかった。
「じゃあナギは今は一人暮らしなのか。」
「うん。下北って便利だよねー。新宿にも渋谷にも出られるし。」
「だな。渋谷はほとんど行かねえけど、俺は。」
「私は渋谷ばっかりだなー。じゃあ同じ下北でも使う路線は違うね。
そりゃ会わないわけだわ。」
早川は電車のつり革に捕まって、窓ガラスに写った姿をみて気づいたように口を開く。
「クロほんとおっきいね。いろんなとこぶつかりそう。」
つり革の上の網棚のパイプを掴む黒尾は、早川を見下ろして言う。
「そうだなー。もう慣れたけど。
電車の出入り口は絶対かがむ。」
「羨ましい悩みだなあ。」
早川はふふっと笑った。
「クロ、モテるでしょ。」
「それはこっちの台詞だっつーの。彼氏いんだろ?」
さっきの合コンでの彼女の言葉を思い出して黒尾は指摘する。
「あ、聞いてた?うん。いるよ。
彼氏いるのに合コン行くなんて、幻滅だよねー。」
「はあ?別に普通なんじゃねえの。ガキじゃあるまいし合コンくらい。
ちなみに今日のメンバーの男、既婚者だっているからね。」
「マジで!?ろくでもないねえ、キミの会社。」
「うるせえよ。」
軽口を叩いていたら、電車は下北沢に到着した。