第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
黒尾は他の女の子と話しながらも、さりげなく凪沙のことを観察していた。
「えー、じゃあ早川ちゃん彼氏いるの?」
「はい、いますよー。」
凪沙はニコニコしながらグラスにお酒を注ぐ。
「なんだよ。彼氏いるのに来ちゃっていいのかよ。」
「んー、彼氏と合コンは別腹的な?
でもやっぱり嘘は良くないので、聞かれたらちゃんと正直に答えることにしてるんです。良い子でしょ?」
彼女はそう言ってさりげなく自分の手が男性の指に触れるようにグラスを渡す。
口元に添えられた手、緩くまかれた髪、淡いピンクのネイル……。
(小悪魔系か……。)
黒尾は幼いころの記憶を引っ張り出して、今の彼女と重ねようとするが、うまくいかない。
(ていうかあいつももういい歳だろ?みっともないからやめろよ。)
心の中でそう毒づくが、早川に伝わるはずもなく、
彼女の合コンテクは惜しみなく披露されていった。
黒尾が途中、トイレに立ったついでに、外でタバコを吸おうと出口に向かったときのこと。
通路の向こうから女性たちの話し声が聞こえてきて、思わず黒尾は物陰に身を隠す。
「さすが早川ちゃん。こういうとこではウケがいいよねー。」
「でもあの子ももうアラサーでしょ。そろそろ厳しいよね。」
「言えてる~。別に顔だって並みだしね。
ていうさ、あの子、微妙に冴えない男にばっかり媚びてると思う。
こいつならちょっとちやほやしとけば喜ぶだろうみたいなとこ狙ってるって絶対!」
「あ、それ私も思ってた!今日なら太田さん横井さんあたりだよね。」
「うんうん。まあその辺は好きにして~って感じなんだけど。
ほんと、したたかだよね。」
「でも仕事はできないっていう。」
「あはは!言えてる。」
「課長も頭悩ませてたよ。早川ちゃんの成績が悪いせいで課の評価が下がってるって。」
「うっそ、まじでー。ボーナス下がったら嫌なんだけど!」
「だよねー。ほんっと迷惑。」
女性たちが戻って行ったのを確認して、黒尾はようやく外へ出た。
(あー、嫌なもん聞いちまったな。)
ポケットから煙草を取り出して、火をつけた。