第1章 真夏の君 (影山 飛雄)
「東京は、その、どうなんですかコラ。」
歩きながら俺がボソボソと質問すると彼女はまた笑った。
久しぶりで緊張してるのは俺だけか。
「なにその敬語。そうだねえ、人がいっぱいいて、遊ぶところがたくさんあって、楽しいよ。」
「その、彼氏とかも、できたのか?」
「できないよ。ていうか、私好きな人いるし。」
彼女のその言葉に、俺はドキリとする。
そうか、好きな男がいるのか。
「じゃ、じゃあ、その男と、付き合うとかは?」
バクバクと心臓が痛いほどに高鳴る。
「どうかなあ。そろそろ告白でもしてみようかなあ。飛雄どう思う?」
涼しい顔でそう言う彼女の横顔は、ずいぶん大人に見えた。
俺はなんて答えていいか分からずに「すれば」と乱暴に言い捨てた。
「飛雄は?彼女できた?」
「できるわけねえだろ。ボケ。」
俺も、好きな奴いるし……。
とは言えなかったけど。
「そっか。バレーはどう?推薦もらえそうなんだよね?」
「まあな……まだ迷ってるけど。」
「飛雄は勉強苦手だからね。推薦で行けるならそれがいいよね。」
「うるせー……。俺だって色々考えてんだ。ボケ。」
「そっか。そうだよね。」
それから俺たちは少しだけ黙って歩いた。
生ぬるい風が吹いて、凪沙の髪がさらりと揺れた。