第1章 真夏の君 (影山 飛雄)
「ちょ、ちょっと飛雄……?どうしたの何があったの?」
ゼーゼーと息を切らしてフラフラになって現れた俺に、
凪沙は困惑した様子で声をかける。
「……軽い……トレーニングだ。」
「どう見ても軽くないって。もう、なにしてんの。ほらここ座って。飲み物買ってくるから待ってて。」
俺は彼女に言われるままに改札前のベンチに座る。
くそう、こんなはずじゃ……。
「はい、どうぞ。トレーニングの後は水分補給しなきゃね。」
「あざス……。」
差し出されたポカリを半分ほど飲み干す。
大分呼吸が落ち着いてきた。
「相変わらずだね、飛雄。」
凪沙はそう言って笑った。
「うるせーよ。お前は、なんかちょっと変わったな。」
髪の色が明るくなった。
少し化粧もしているようだ。
服もヒラヒラしている。
「大人っぽくなったって?」
「チャラチャラしてんじゃねえよ。何しに大学いってんだ。」
口調が少しきつくなってしまって反省する。
しかし彼女はそんなの慣れっこという風で全く気にしていないようだ。
「えへへ。飛雄だなあ。」
ふにゃりと力の抜けたその笑顔は子どもの時から変わらない。
「そろそろ行くぞ。」
俺は少し赤くなった顔を隠すために立ち上がった。
「あ、待って。」
凪沙は慌ててキャリーバッグを転がしてついてくる。
「貸せ。」
俺はそれを彼女の手から奪って持ち上げる。
俺のそんな態度にも、彼女は笑顔で答える。
「ありがと。飛雄は優しいね。」
「うるせえ、これも被っとけボケ!暑さでぶっ倒れるぞ!」
照れ隠しに、自分で被っていた帽子を乱暴に凪沙の頭に乗せた。
「あはは!汗くさい!」
「うるせ。我慢しろ。」
彼女は笑いながら俺に並んで歩いた。