第4章 37.9度(赤葦 京治)
ところが木葉だけがベッドのそばに座って動かなかった。
「木葉…?」
「早川さ、こいつが何キロあるか知ってんの?」
「あ……。」
木葉は意地悪く笑う。
「赤葦が道中へばったら、お前つぶされるぞ。」
「そうかも……。」
早川がえへへとごまかすように笑うと、木葉はため息をついた。
「しっかりしろよー。年上の彼女なんだろ。
ほら、自分の荷物持ってこい。
赤葦のはもうここにあるから。
俺が一緒に送ってってやるよ。」
早川は、ありがと、と短く礼を言って保健室を後にした。
彼女の足音が聞こえなくなってから、赤葦はよろよろと起き上がった。
「木葉さん、俺大丈夫ですから部活戻ってください。」
「なんだ、起きてたのか。無理すんなって、お前倒れるとき頭からいったぞ。大丈夫か?」
「ああ、言われてみれば頭がガンガンします。これ床に打ったからですか。
あ、そろそろ俺も練習戻りますね。」
そう言ってふらふらとベッドから出ようとする。
「いや、意味わかんないから。
やめて俺がみんなに怒られるからまじで。」
木葉は無理矢理赤葦をベッドに押し戻す。
「あと、お前になんかあったら早川めっちゃ怖いから。
な?大事な彼女なんだろ。」
「……俺は、あの人が怒ったとことか見たことないです。」
朦朧とする意識の中で、赤葦はつぶやいた。
(木葉さんの前では、そんな怒ったりするんですね……。)
そう続けるつもりが、熱のせいでぼうっとする頭と身体は言うことをきかず、
ぼんやりと天井を眺めた。
赤葦と早川は付き合って3か月ほどになる。
早川は木葉のクラスメイトで、1年の時からずっとクラスが同じだったため、二人は仲が良い。
自分より付き合いが長いのだから、距離に差があるのは当然だし仕方ない。
分かってはいるが、赤葦の心の中では不安が拭いきれなかった。