第1章 真夏の君 (影山 飛雄)
「飛雄。凪沙ちゃん帰ってくるの今日だったでしょ。
駅まで迎えに行ってあげなさい。」
「分かってるよ。」
母さんに言われて、俺は重い腰を上げた。
外に出ると、強い日差しを浴びて汗がじわりと吹き出す。
「あっつー……。」
俺は帽子をかぶって駅まで走りだした。
今日、久しぶりに凪沙がこの町に帰ってくる。
凪沙と俺は幼馴染で家もすぐ近所だ。
1学年上の彼女は、俺より先に烏野高校を卒業して東京の大学へ進学した。
子供の時から一緒にいて、こんなに長い期間会わなかったのは初めてだ。
夏休みに帰省するとメールが来てから、俺は指折り数えて楽しみにしていた。
同時に、少し心配でもあった。
東京に行って、彼女が変わってしまっていたら。
田舎者の俺なんか、相手にされなくなってしまったら。
いつか田中さんが言っていたようなシティボーイの彼氏でもできていたら。
たくさんの「たら」が頭に浮かぶ。
俺はそれらを振り払うように全力で駅まで走った。