第3章 東峰、部活やめるってよ。(菅原 孝支)
体育館リハから数日後、私は部活中に具合が悪くなって保健室で休んでいた。
朝から少し風邪っぽかったからなあ。
そう思いながらベッドでウトウトしていたら、
誰かが扉を開けて入ってきた。
「すいませーん。って、誰もいないのか……。」
聞き覚えのある声に私の眠気が吹き飛んだ。
菅原君の声だ。
起き上がって髪を整えていたら、彼の次の言葉が耳に響いた。
「まあいいや、清水こっち座って。」
私の身体に緊張が走る。
音を立てないようにそっとカーテンの隙間から様子をうかがう。
菅原君と、バレー部の美人マネの清水さんが見えた。
「清水が怪我なんて珍しいよなー。」
「ちょっとひねっただけ。大したことないのに」
「だーめ。湿布湿布……あった。ほら、靴脱げって。」
椅子に座った彼女の前に、
菅原君が跪いて手当しているのが分かる。
清水さんは冷静に言葉を返す。
「菅原はちょくちょく怪我しすぎ。」
彼は軽く笑った。
「はは、それ今言う?
でもいつも清水には絆創膏もらったりしてるからさ、たまにはこうして恩返ししないとな。」
「この前あげたやつ、まだ残ってる?
なかったらまたあげるけど。」
「あー、そう言えばもうないかも。
結構人にあげちゃったりするんだよね。」
その言葉に私の心臓は痛いほどに脈打つ。
私のことだ……。
「ふーん。誰?」
清水さんはさほど興味もなさそうに言葉を繋いだ。
「名前わかんないけど、ほら、吹奏楽部の副部長の子?
指切っちゃったっていうからさ。」
私は一瞬息ができないほどに胸が締め付けられるのを感じた。
菅原君、私の名前、知らなかったんだ……。
「あー、最近よく菅原に声かけてる子ね。」
納得したように清水さんは頷いた。
「期待させたらかわいそうだよ。」
彼女の言葉に、菅原はまた笑った。
「なんだよそれ。俺、特別なこと何もしてないべ。
ただ挨拶するくらい。あ、もしかして清水やきもち?」
「うるさい。」
「はいはい。」
もう見ていたくないのに、聞きたくないのに、
私は二人の姿にくぎ付けになって動けなかった。