第3章 東峰、部活やめるってよ。(菅原 孝支)
残された私は、大量の譜面を胸に抱えたまましばらく動けなかった。
こんなことってあるのだろうか。
絶対に関わることなんてないと思っていた。
遠くから見ているだけで幸せだった。
静かに終わる代わりに、喜んだり苦しんだりしない、そういう恋だと思っていた。
初めて言葉を交わした彼は、見ているだけだった時より、
ずっとずっと素敵で、胸が痛いほどに好きだと思ってしまった。
憧れの菅原君と話せて、嬉しいはずなのに、私は泣きそうになっていた。
「おそかったね、ナギ。譜面配っちゃおう。
半分ちょうだい。」
音楽室に入ると、藍ちゃんが私に話しかける。
「藍ちゃん、どうしよう私とんでもない目にあってしまった。助けて!」
私の剣幕に彼女は少し引いているようだった。
「わ、分かった。ナギの話はあとでちゃんときくから。
とりあえず譜面配らないと、コーチ来ちゃうから……ね?」
藍ちゃんに諭されて、私は頷いた。