第3章 東峰、部活やめるってよ。(菅原 孝支)
譜面の束と楽器のケースを抱えて私は急いでいた。
部室と音楽室、遠いのって不便だよなあ。
そう心の中でつぶやいていたら、曲がり角で誰かにぶつかった。
「うわ!」
「きゃ!!」
名前も知らない男子生徒。確か隣のクラスの……
私が何とか名前を思い出そうとしていたら、
サッカー部のジャージを着た彼は
「わりい!急いでるから!」
そういって転んだ私を置いて走り去った。
「おい、なしてんだよ早くしろよー」
同じサッカー部と思しき男子との会話が廊下に響く。
「ごめんごめん、ちょっと人とぶつかっちゃって。」
「だれ?」
「知らねー」
「はは!ひでえ。」
嫌な感じ。
でも、怒っても仕方ないことはよく分かっている。
私は小さくため息をついて立ち上がる。散らばった譜面を拾い始める。
すると、
「大丈夫か?」
頭上から声がかけられた。