第22章 きっかけ(瀬見 英太)
「英太くーん、部活いこー!」
終業のチャイムが鳴って一分もしないうちに、いつものように天童が俺のクラスにやってくる。
「うるせえな。一人で行けよ。」
良く響く天童の声に負けじと、俺も声を張り上げる。
それを聞いて、早川がすかさず口をはさむ。
「瀬見くん、部活何やってるの?」
「……バレー部。」
数秒迷ってから、俺は正直に答える。隠すことでもないし、黙ってたってどうせ知られる。
「ここのバレー部って有名だよね。すごいね!」
すごいすごい、と早川は目を輝かせた。
「瀬見くんがバレーしてるの、久しぶりに見たい!試合とか、ある?」
「あー、まあ。あるっちゃあるけど……。」
レギュラー落ちたばっかの俺には、さすがにしんどい……。
「英太くんはねー、同年代のなかではかなり有名なくらい巧いんだけど、今スランプ中だから、またそのうちね~。」
意外にも助け舟を出してくれたのは天童だった。
「そうなの?」
「そうなの。また復活したら見にきてね。
ほらほら、英太くんはやくしないと鍛治くんに怒られちゃうよ~。」
完全に天童のペースに飲まれた俺と早川は、じゃあねと手を振るまもなく別れることとなった。
「なんでいちいち俺のクラスまで来るんだよ。」
廊下を並んで早足で歩きながら、天童を睨む。
「えー?だって英太くんの教室、通り道だし。」
彼はいつも通りの独特のテンションでかわす。
「……別にサボりも逃げもしねえよ。」
「ありゃ。分かってた?さすが。」
「お前、俺が控えになった途端来るようになったじゃねえか。分かるっつーの。」
「だーよね~。」
ケラケラと笑ってから、天童にしては珍しく真面目な声を出した。
「英太くんは、いい選手だと思うよ。ほんと。」
「……。」
俺が何も答えないでいると、天童は話題を変えた。
「さっきの子、かわいかったね。編入生?」
「おまえなあ……。」
なんだか力が抜けた。つくづく、変な奴だなと思う。