第22章 きっかけ(瀬見 英太)
隣りの席になった早川は、ひさしぶり、と軽いあいさつする。
「おばあちゃんの家にね、戻ってきたの。」
お母さんと。と、付け足して、彼女はふふっと笑った。
その頬に小さな笑窪を見つけて、ああ、本当に早川だな、と改めて思う。
「ふーん。」
俺はその窪みに人差し指を押し付けてぐりぐりとしてやった。
「いたいいたい!なに?やめてよー。」
「ん?本物だな、と思って。」
「なにそれ。」
「子供の時、急に引っ越してきて、急にいなくなったから。お前。」
「そうだっけ。」
「そうだよ。」
「まあ、そんなもんだったからね。いつも。」
鞄の中から教科書を取り出しては机の中へ入れながら、彼女は答える。
「転勤族ってやつ?」
「そうそう。父親の仕事の都合でね。あれから3回転校したから。これ4回目ね。」
「すげえな。」
「でも、これでおしまい。高校卒業したら、自由に生きられる。」
彼女は、嬉しそうに声を弾ませた。
「また会えたね、瀬見くん。」
その笑顔をみて、俺は久しぶりに気分が上がるのを感じた。