第21章 affettuoso(孤爪 研磨)
「通信制とか、どうかなって母さんは言ってるけど、本人はあんまり興味ないみたいで。」
「あー、高校のはなし?」
「うん。」
「凪沙、勉強きらいだもんなー。」
「ばかだしね。」
「こら。そう言うなって。」
「本当のことだし。」
「でもまあ、いざとなったら俺がもらってやればいいか。」
クロはことあるごとにこれを言う。
冗談ぽくて、いわゆるノリなんだろうけど、父さんも母さんも「いくらなんでも鉄くんに申し訳ない」と言いつつも内心では本当にそうなったらいいのにな、て思っているのが見て取れる。
そして、クロが案外本気であることも、俺は分かっている。
「だから、変な男にちょっかい出されないように見張ってないとな。」
おれは返事をしない。
言われなくても、そのつもりだし、凪沙に少しでも変化があればすぐに気付ける自信もある。
一番近くで、一緒の時間を生きてきたんだ。
クロのことは好きだけど、凪沙とクロがどうにかなるなんてことになったら、何の比喩でもなくおれは消えてしまいたくなる。
クロが嫌な奴だったら、どんな手を使っても凪沙から遠ざけるのに。残念ながら、おれにはクロを憎むこともできない。