第3章 東峰、部活やめるってよ。(菅原 孝支)
うちのバレー部は、何年か前までは強かったらしい。今は多分普通。
吹奏楽部の私には、全く無縁の運動部だ。
同じ学校なのに、遠い世界のような存在。
そんなバレー部に、少しだけ接点を持てる日がある。
月に一度行われるクラブ会だ。
部長と副部長が集まって活動報告や大会日程の共有、練習予定の調整などを行う。
まあ、簡単に言うとザ・雑用だ。
でも私は、この日を少し楽しみにしている。
バレー部の副部長、菅原君に会えるから。
会えると言っても何か言葉を交わすわけでもないし、
遠くから眺めて、彼の声が聞けたら勝手にドキドキして胸を躍らせているだけだ。
彼は校内でも有名人で人気者だ。
爽やかで誰にでも優しくて、おまけに進学クラスの優等生。
にもかかわらず、全く気取らない性格。
私の他にも彼に思いを寄せている女子は無数にいる。
そして、きっと彼は私の存在も名前も知らないはず。
でも、それでもいい。
普通に学校生活を送っていたら、きっと彼の半径15メートル以内に入ることも叶わなかっただろう。
それが、同じ副部長という立場で、同じ空間でクラブ会に参加する。
それだけで大満足だ。もう高校生活大往生だ。
副部長なんてぜんっぜんやりたくなくて半ば押し付けられたと思って不満たらたらだったけど、
全部チャラにして、いや、お釣りをもらってもいいくらいだ。
とにかくそのくらい私は菅原君に憧れている。
藍ちゃんは澤村君派だって言ってたけど、
彼女にはきちんとお付き合いしている彼氏がいるから、
また立場が少し違うわけで。