第21章 affettuoso(孤爪 研磨)
凪沙とおれは、双子の兄妹だ。
生まれた時からずっと同じように育てられたはずなのに、おれたちは顔も性格も全然似ていない。
まあ、クロに言わせると「二人とも猫っぽい」らしいけど。
とにかく凪沙は、のんびりしている。
俺が歩き始めたころに彼女はようやくハイハイができるようになり、
俺が「こづめけんま」とひらがなで書けるようになった頃に彼女はやっと「パパ、ママ、けんま」と言葉を発するようになった。
勉強も運動も全くダメ。母さんが苦労して探してきた「面倒見のいいのんびりした高校」に入学するも、半年もたたずに行かなくなってしまった。
乗り物にも人ごみにも弱い凪沙が、片道1時間の電車通学に耐えられるわけがないと思っていた俺は、ちっとも驚かなかったけど。
駅で具合の悪くなった彼女を、共働きの両親に代わって迎えに行くのはおれの役目だった。
「けんまと同じ高校に行きたかった。」
帰り道、彼女はそうグズったけど音駒高校は凪沙の学力じゃ無理だ。
「音駒にはクロもいるでしょ。いいなあ……。」
凪沙はクロによく懐いている。クロも凪沙のことを本当の妹のようにかわいがっている。
「クロは学年一つ上だからあんまり会えないし、学校で見かけたら『黒尾先輩』って呼んで敬語で話さないとダメなんだよ。」
実際はそんなことないんだけど、おれはわざといじわるを言う。
「えー。クロはクロなのにい……。」
口をとがらせて不満そうにつぶやく。
それから結局、凪沙は二年生になれずに高校を辞めてしまった。