第20章 三月の微熱(花巻 貴大)
結局そんな感じで、俺と早川の距離は付かず離れず。卒業式の日を迎えてしまった。
なにか約束をしていたわけじゃないけど、早川は今日ここに来ると思った。
立ち入り禁止の屋上につながる扉の鍵の暗証番号は、俺が1年の時に当時の3年生から教えてもらった。
もしかしたら俺の他にも知ってる奴はいるかもしれないけれど、今日までここで早川以外と会ったことはない。
早川に暗証番号を教えたのは、俺だった。
ここに初めて連れてきたときの早川の興奮と喜び様は、今思い出しても笑えてくる。
「すごいですね!青春ですか!秘密基地ですか!」
頬を赤らめてはしゃぐ彼女はかわいくて、静かにしろよと注意しながら、俺も4ケタの暗証番号を押す指が震えていた。
俺だけの息抜きの場として重宝していたこの場所に、早川も時々来るようになって、俺は少しずつ気付いたことがある……。