第19章 Long goodbye(木葉 秋紀)
「山下センセ、泣いてたのみた?」
「え、古文の?まじで。」
「うん、あれはちょっとやばかった。もらい泣きしそうになるレベル。木葉だったら瞬殺だね。」
「だから、俺のは花粉症!」
「はいはい。」
当てられそうな問題が分からない時に「問2なに!?ヘルプヘルプ!」って焦って小声で話しかけてくるのが嬉しかった。
いつ質問されても答えられるように、私はかなり勉強がんばったんだよ。
「学食のラーメン、微妙なんだけどくせになるんだよなー。
俺もう一回くらい食べとけばよかった。」
「あーわかる。別においしいわけじゃないんだけどね、気になる味だよね。」
だろー、と木葉が細い目をさらに細めて笑う。
木葉の進路を、私は知らない。私の進路も、木葉に伝えていない。
きっとこれが、最後の会話になって、この先の人生で私たちが交わることはないのだと思う。
それなのに、一体何を話しているのだろう。
言っておきたいことも、聞きたいこともたくさんあるはずなのに。
口から出るのは、どうでもいい内容ばかりなんだ。