第19章 Long goodbye(木葉 秋紀)
3月
さくらのつぼみもまだ固いうちに、私たちは卒業を迎えた。
式を終えた教室はいつも以上にざわついており、浮かれたような、じれったいような、それでいてやはりどこかせつなげな、独特の空気を纏っている。
「木葉、泣いたでしょ。」
私は、前の席に座るクラスメイトの背中をつつく。
「うるせー。花粉症だっつの。」
「はいはい。」
振り返って、目と鼻を赤くした木葉が反論してくる。
うん、いつも通りだ。
「結局ずーっとこの席だったな。」
身体ごとこちらを向いて、私の机に頬杖をつく。椅子の背もたれを長い脚がまたいでいる格好だ。
これを見られるのも、今日で最後。
「そだね。うちの担任適当だもんねー。木葉とは去年も隣の席だったし、ほんと腐れ縁……。」
私が苦笑いすると、木葉もまったくだ、と頷く。
「授業中寝てるの、何度起こしてあげたことか……。」
「うなじにシャーペン刺されたやつな。」
「あれはごめんて。」
プリントを回してくれる手を眺めるのが、授業中の楽しみだったことは私だけの秘密。
バレー漬けの彼の手は、湿布が貼られていることも、爪が割れていることもあった。
引退した今は、すっかりきれいな手をしている。