第18章 何度目の青空か(木兎 光太郎)
「……うそ……だろ?」
写真館があったはずの場所には、真新しい建物が建てられていた。
“養護老人ホームぬくもり”
そう表記された白い建物の前で、木兎は膝から崩れ落ちそうになるのを何とかこらえる。
そして、脳をフル稼働させる。
(落ち着け落ち着け、建物は変わっても土地はじいちゃんの物だろきっと。
だから土地を貸して近くに住んでるはず……。
でもどこに?あ!そうだ、ナギの高校ここから近いよな。そこ行けば何か教えてもらえるかも!?
今日土曜日だけど誰かいるかな……。)
普段バレー以外には使わない頭で、精一杯考える。
こんなとき赤葦がいれば……!と、頼りになる後輩が恋しくなるが、今は自力でなんとかするしかないのだ。
「あれ、木兎じゃね?」
背後から名前を呼ばれて、振り返ると、そこにはかつてのクラスメイトがいた。
「やっぱり木兎だ。でかくなったなー!俺、池田。覚えてねえ?」
「い、池田か!覚えてる覚えてる。すげえ偶然!いやむしろ天の助け!!」
木兎は自転車に乗った彼の腕をがしっとつかんで、旧友との再会を喜び、これで情報が手に入るとほっとした。
「なあ、ここにあった写真館ってどうなったの?」
木兎が指差す先に視線を向けて、彼は、言いにくそうに頭を掻いた。
「あー、そこのじいさん去年の春に亡くなってさ。そのまま閉店しちまったよ。」
木兎は驚いて固まる。
「え、え?どうして?じいちゃん元気だったじゃん。……じゃあ、ナギは?あいつどうしてんの?いまどこにいんの?」
畳みかけるように質問を浴びせられて、池田はまあおちつけ、と木兎をなだめる。
「まあ、歳だったしなあ。早川はどこか親戚のとこに引き取られたって噂だけど、俺も詳しいことは分かんない。
この町にいないことは確かだね。そういえばお前、早川と仲良かったよなあ。」
それからいくらか近況報告をしたものの、彼の言葉はもう木兎の頭には入って行かなかった。