第18章 何度目の青空か(木兎 光太郎)
「よし、じゃあすぐ現像してやるから。ちょっと待っとけ。」
撮影を終えて、早川の祖父は作業室にこもってしまった。
その間、二人は近所の海へやってきた。
波の音を聞きながら、堤防の上を並んで歩く。
晴れていたが吹きすさぶ海風はまだ冷たくて、早川は上着を着てこなかったことを後悔していた。
「寒いか?」
「ん。ちょっとね。」
肩をすくめる彼女に、木兎は自分のブレザーをかけてやる。
「へんなの。」
「な、なにがだよ!?」
せっかくの気遣いを変だと言われて、木兎は少し傷つく。
「ついこの前まで、ケンカやいたずらばっかりしてた木兎が、急に大人っぽくなったみたい。」
「そうか?あ、お前も大人っぽくなったとこあるぞ!」
「ほんと?」
嬉しそうに早川が彼を見上げる。
「おう。おっぱいおっきくなっ……あっぶねえ落ちる落ちる!!」
頬を赤くした早川に体当たりされてバランスを崩した木兎が焦って声を上げる。
「そういうのは言わなくていいの。」
「はい。ごめんなさい。」
しょんぼりと肩を落としている彼がいつもと変わらなくて、ほっとする。
空を見上げると、抜けるような青空に、短い飛行機雲が映える。
「高校、卒業したらさ、ナギも東京来いよ。」
思いがけない提案に、早川は目を丸くする。
視線を空から、彼に落とす。
「無理だよ。じいちゃん置いていけないじゃん。」
「そうか……そうだよな。じゃあさ……」
少し考えてから、木兎は早川の目を見据える。
「俺が、会いに来るから!だから、待ってて!!」
波の音と、風の音と、彼の声。大きく力強く光る瞳。その後ろには、どこまでも続く青空。
早川は、その全てを胸に焼き付けて、大きく頷いた。