第18章 何度目の青空か(木兎 光太郎)
木兎は、小さな田舎町で育った。
海が近く、温暖で、農業も漁業も盛んな地域だ。
その町に早川凪沙がやってきたのは、小学5年の秋だった。
「お前さー、写真屋のじいちゃんとこの子なの?」
1学年1クラスしかない学校で、転校生の早川はクラスメイトから好機の目を向けられていた。
「うん。」
早川は木兎から視線を逸らして頷いた。
「親がいないって本当?」
小さな町では噂話が子供の耳に入るのも早かった。
木兎は悪気はないのだが、少々配慮に欠ける部分もある少年だった。
「うん。」
もう一度頷く早川。涙を堪えて唇を噛む。
「ふーん。なあ、バレーボールしよ!」
木兎はくるりと話題を変えて、早川の小さな手を引いて校庭に向かった。
「私、やったことないよ。」
ぐいぐいと手を引っ張って走る背中に向かって、早川は声を投げる。
「俺が教えてやる!楽しいよ!!」
振り向いて返事をするその目が、秋の西日にキラリと輝いた。