第17章 てのひらの恋(澤村 大地)
「じゃあ澤村君。やんないならさ、お願い聞いて?」
「なんですか。」
否定も肯定もせずにとりあえず話を促す。
「手、つないで?」
隣に座る彼女は左の掌を俺の目の前に出した。
「は?何言って……。」
「じゃなきゃ、ちゅーするよ。」
一体どういう脅しだ。
俺は仕方なく彼女の手のひらに自分の右手を重ねた。
「ふふっ澤村君の手、おっきいね。」
指を絡めてくる彼女が本当に嬉しそうに笑うものだから、俺はドキリと心臓が高鳴る。
同じゼミとはいえ、ほとんどしゃべったこともない女の人を家に上げて、こんなことして。俺も相当酔ってるのか、
と全部酒のせいにしたくて、残りの缶チューハイをごくごくと飲んだ。
「澤村くんみたいな人に好きになってもらえたら幸せなのになー。」
ぼんやりとした表情でつないだ手を見つめながら早川さんが呟いた。
俺はなんて答えていいのか分からずに聞こえないふりをする。
「……無視ですかー。」
すっかり体温の高い身体が寄りかかってくる。
「ちょっと、寝るならベッド使ってください。」
「んー。もうちょっと……。」
そんなこと言って、この人絶対このまま寝る気がする。
「ねえ、澤村君。」
不意に呼ばれて、俺は返事をする。
「なんですか。」
「きもちいね。手つないで、ただこうしてるのってすごい贅沢。セックスするより好き。」
「そうですか。」
それから彼女はもごもごと一言二言しゃべっていたが、そのまま眠ってしまった。
名前を読んでも、体をゆすっても起きる気配のない彼女は、
俺がつないだ手を離そうとするとそれを拒むようにぎゅっと握ってきた。
俺はもう片方の腕を伸ばして眠ったままの彼女をそっと抱きしめた。